3) エルミタ周辺地域
(1)  ゴール・ポストに対する意識

図 11: 立木に設置されたゴール
BRG2088 Ramos St. Manila City
(2003.02.18)
 Ermitaに限らず、ゴール・ポストは色々な場所に設置されているが、電信柱や立木に打ち付けられているゴールについて、プレイヤーは次に述べるような感想を抱いている。


・ 自分たちのゴールのレベル
 路地裏の少年達の行動範囲は得てして狭い。日常生活の中で自身のバランガイを出て、隣市でモ「物を楽しむといったような行動はあまりみない (※1)。必要なものは近所の「サリサリストア (※2)」や「パレンケ(※3)」で購入できるということもあるし、経済的な要因、交通事情、気候など、色々な理由が挙げられる (※4)。

 上記のような生活習慣の中で、彼らは自分たちの設置したゴールが、他のBarangayと比してどうかということに関心を持っているケースがあった。筆者は、これまでに撮影したゴール・ポストをスクラップブックにして持ち歩いていた。大抵、子供達はこのノートを奪い合うように廻し読みし、口々に他のBarangayのゴール・ポストについて、質問したり、感想を述べ合ったりする。

 質問のうち多いのが「このゴールはうちのやつより高いか低いか。」であり、感想としては「このゴールは、うちのよりひどい」とか、「ここのゴールは綺麗だけど、遠いからあんまりプレイしたことがない。」などというものでる。ゴールの高さは、ある程度、何らかの基準で決めた上で設置されていると思っていたが、よく考えれば、立木の場合「設置できる高さ」は、立木によって制約される。つまり、環境的に制約がある中で、大体の妥協線に設置しているのである。

 また、距離的な問題については、彼らが「遠い」といっているのが、1kmほどしか離れていない場合など、よくある。確かに徒歩で遊びに行くには少しだけ遠い気もするが、この距離感覚は、筆者などとは、相当に隔たりがある。


・ 「正規な物ではない」ゴール
 また同時に、彼らは、自分たちが設置したゴールが、あまり上等なものではないと認識している。筆者からみれば非常に魅惑的でマニラ的な立木のゴールは、彼らに言わせると「正規なものでない」「あまりよくない」代物ニして認識されていることがある。

 2003年2月10日に赴いたM.H. Del Pilar St.とPedro Gil St.の交差点近くにあるエリアで、やはり立木に打ち付けられたゴールを、住人の許可を得て撮影していた。すると、奥から15-6歳の子が現れ「こんな変なものとるのだったら、アストロドームへ行ったら、もっと綺麗なやつがある。それを撮った方がいい」としきりに奨める。筆者としては、体育館に設置されたゴールなどに興味はないし、いつでも撮れるので「これが良いんだって」と返してみた。しかし、「こんなの正式じゃないから」と言って、しきりにアストロドームを奨める。外国人にフィリピンには、こんなゴールしかないと思われたくないという、彼の名誉に関わる問題だったのだろう。

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-------脚注---------

  1. もっとも、中産階級の人々は、食事は〜市の〜モール、買い物は〜モールといった移動を行うが、これは、タクシー、マイカーという移動手段と、異動先で使えるだけの資金が前提である。
  2. 生活雑貨を販売している小規模な店舗。煙草、酒類、日用品から、インスタント食品、菓子類まで揃っている。コンビニエンス・ストアなどとは異なり、地域密着型の運営である。
  3. 生鮮市場。パレンケによって異なるが、魚介類、精肉類、観葉植物、生活雑貨などが売られている。
  4. 筆者は好んでジプニー(2005年3月現在初乗り5.5pesos)を使っていた時期がある。ジプニーは道路規制上、進入できない地域や、道路があるので、この移動手段だけで目的地に行こうとすると、相当な遠回りをするか、場合によっては、たどり着けない場合もある。これでは「気楽に買い物」という気分にはならない。


  5. 投稿者 MMG : 11:51 | -