2007年10月23日
Ayala Bomb?
写真、文章: 美山 治 (ミヤマ オサム)
Text & Photo: Miyama Osamu
>>爆発現場周辺の地図を見る
10月19日金曜日。午後1時40分頃 Ayala Avenue (マカティ市アヤラ・アベニュー)沿いのオフィスで勤務中、フィリピン人上司が誰かと携帯電話で話し始めた。「誰々さんが今日休んでいて、今オフィスにいるのはAさん、美山さん、Bさんで、Cさんはお昼休みに出ているので今から連絡を取ります。」とタガログ語で話している。私はお客さんからの電話に対応しながら背中でそのやりとりを聞いていた。ああなんかあったんだなと察した。
「お時間」を「ご時間」と言う彼ではあるが、日本語についてはかなり難しい敬語まで使いこなす。確かに「ご」と「お」の使い分けは難しい。彼は心持ち顔をこわばらせ、口頭にて我々エージェントに今回の爆発について報告した。彼のこわばった表情は非常事態に対するものではなく、人前で話すことに対する緊張感によるものであった。彼は人前で話すのは苦手なタイプだ。その訛りのある日本語とぎこちなさが少しだけ私の不安を煽った。爆発が起こってからおそらく数分後という、とても早い第一報であった。
GMAのニュースページ(外部リンク)を閲覧したところ、グロリエッタ2(外部リンク)、一階の中華料理店"Luk Yuen Noodle House"でLPGガスが爆発したという。現場は私が毎朝通る道だ。その時点で爆発はテロではないという報道のされ方であった(注1)。
タイミング悪く、当日は3年ぶりに日本から来る知人との飲み会のため午後7時にGreenbelt3で待ち合わせをしていた。第一報の時点では事態を楽観的に見ていて、携帯から「Glorietta2, Luk Yuen toiu Chinese restaurant de LPG gus bakuhatudesu. Tero deha arimasen.(3時7分)」
「Greenbelt ha daijoubu-soudesu. Kuruma mo tsujou-douri nagarete imasu. Yotei douri de ikimashou. (3時37分)」
というテキストメッセージを送った。
上記サイトのリロードを繰り返し続報を待っていたところ、フィリピン警察の地上部隊が現場に入り調査を始めたという記事がアップされた。警察の偉い人は「爆弾の可能性有り」とコメントした(注2)。
しばらく情報収集をしているうちにグロリエッタ内部の画像がアップされた(注3)。見慣れた風景がぐしゃぐしゃに歪んでいるショッキングな画像だ。画像を見る限り、確かにガス爆発とかそういう規模じゃないような雰囲気だ。もしかして本物か。
この画像を見て、ガスだろうが爆弾だろうがAyala Center周辺に近づくのは困難とみて、Manila市近辺に予定を変更した。予定変更のTextを送ったのは4時48分だった。入ってくる情報が錯綜しているのと、勤務中であるためニュースを頻繁にリロードできなかったこともあって判断が若干遅くなってしまった。テキストメッセージのレスポンスも遅く、電話をかけても「ツーっツーっ」といっている。少々焦った。私の第一報を受けてGreenbeltへ向かっていたらどうしようという思いがちらちらとよぎる。
午後6時過ぎにオフィスを出た。繋がらない電話と応答の無いテキストメッセージにイライラしながら徒歩にてBuendiaへ抜けた。Manila方面へ向かうには多少遠回りでもEDSA周りで行った方が経験的には早いのだけれど、Ayala Center付近は通り抜けが難しいだろうと判断したからだ。BuendiaではAyala方面へ入ってくる車両への検問が始まっていた。入念に車の後部トランクのチェックを受けている車両の横をバイクがすいすいすり抜ていく。検問の意味はあまり無いように思う。
それ以外はいつもの渋滞の風景で、交差点ごとにジプニーやFXを待つ人々が蟻のように群れている。オレンジ色の街灯は排気ガスに包まれた蟻の群れをもんわと照らし出していた。Buendiaの懐かしい風景を吸い込みながらこのままエルミタまで歩いて行きたい気分になったけれど、それでは遅刻する。金曜日の夜で退社時間とあり、タクシーは捕まらなさそうだ。めぼしいジプニーを探す。人がぎゅうぎゅうに詰め込まれていなく、かつ目の前にタイミングよく止まってくれるそれを探すのはわりかし難しい。すでに額の汗には排ガスがまとわりついている。
「LRTeeee! Ayala! Ayala!」という呼び込みを背後に聞いて振り返り、人がまだ少ししか乗っていない車両に滑り込んだ。いつも思うのだけれど"LRT AYALA"というのは違和感を感じる。LRTにAYALAという駅は無い。もっとも「LRTとAYALAを往復」という意味なのかもしれないがジプニーに掲げてあるサインボードにそのような記載は無い。
久しぶりに乗るジプニーに多少気分が高揚したが、車が止まるたびになだれ込んでくる排ガスゆえ数分後には不快だけが押し寄せてきた。私のようにたまに乗るならまだしも、毎日通勤に使う人はさぞかし大変だろう。ジブニーに乗っている間、右隣に座った17、8歳の女の子2人が手話で会話しているのを横目で眺めていた。車内の天井に取り付けられた小さな電球は、忙しく動く細い腕を照らし出していた。
LRT (内部リンク) Buendia駅手前で逃げ出すようにジプニーから降りた。Taft沿いか、ハリソン沿いのジプニーもあるけど、もうジプニーには乗りたくない。あたりを見回すと車にもたれかかって煙草を吹かしているタクシードライバーを見つけた。彼の「120ペソでいいか?」という金額提示に黙ってうなづいて乗り込んだ。メーターだと70ペソから80ペソくらいの距離だ。妥当なボリかただと思う。タクシーに揺られているとラジオからグロリエッタ爆発の続報がタガログ語で流れてきた。ドライバーは「8人死んだって」と喜々として英語に翻訳して聞かせてくる。外国人と英語で話してみたかったゆえテンションが上がっているのはわかるが、人が死んでいるのに喜々としているのはどういうわけだ。かといって深刻な顔で「これがこの国の抱える問題だ。」とか訳知り顔の演説をぶたれても、それはそれでイヤだ。ハリソンプラザの近くを通り過ぎるとき、私のことを韓国人だと勝手に思いこんでいる彼は、ここ数年増え始めた韓国人と韓国について色々と質問をはじめた。確かにこのエリアは韓国の人がたくさん住んでいる。でも、そんなことは韓国の人に聞いてくれ。一通り話した後で日本人だと言ったら少々ばつが悪そうだった。
ドライバーを適当にあしらいながら久々に通るサン・アンドレスを眺めていた。やっぱこういうぐちゃぐちゃしてて活気がある道はいいよなあと思っているうちに待ち合わせの場所へ到着した。120ペソを渡そうとしたが20ペソ札が無かったので100ペソ札2枚を渡した。釣り銭を渡すべく彼はコインを手のひらに載せて数え始めた。手のひらには小額紙幣と山盛りのコイン。センタボスも混ざっている。「これでいいよ」といって、彼の両手から50ペソ札をつまみ上げドアを開けた。10分遅れでRobinsonモールのPedro Gilウィングのエントランスへ到着した。後になって気がついたが、エントランスの様子が一変していてどこかの国際会議場の正面ゲートのようにビカビカになっていた。(ロビンソンモール周辺地図はこちら)
日本から3年ぶりにやって来た彼の頭髪の生え際は3年前の時のままぎりぎり踏みとどまっていた。久しぶりに日本語の言葉遊びができた会食は楽しく、幸せな気分だった。
アドレアティコにある中華風鍋料理店の"Hotpot"をつつきながら頭をよぎったのは、朝、爆発現場の至近距離にあるクリーニング店にズボンを預けたことだ。予定だと21日の日曜日に仕上がるはずだけれど、その店が残っているかどうかは定かでない。
-------参照リンク、引用---------
1. GMANews.TVより引用 (URL)
"The police said they received reports of an 'accidental explosion" of a liquefied petroleum gas tank. "But we are still verifying it," said Director Geary Barias, chief of the National Capital Region Police Office"
筆者訳: LPGガスタンクの「事故爆発」であるとの報告を受けたと警官は語っている。首都圏警察室長ゲーリー・バリアス氏は「しかしまだ原因を特定中である。」と述べた。
2. GMANews.TVより引用 (URL)
police on site had earlier traced the blast to an LPG (liquefied petroleum gas) tank but Director Gen. Avelino Razon Jr, PNP chief, said that an assessment by ground commanders showed that what exploded could be "a bomb."
筆者訳: 現地の警察は初期段階で爆発をLPGガスタンクからのものとして追跡していたが、フィリピン国家警察(PNP)チーフ Gen アベリノ・ラソン氏は、地上部隊の調査によれば爆弾によるものである可能性があると述べた。
3. ABS-CBNニュースサイトの画像URL(2007年10月27日現在、まだ画像は見られるようです)
http://www.abs-cbnnews.com/storypage.aspx?StoryId=96375