2013年11月6日

隣のバランガイが火事

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文章、写真: 美山 治 (ミヤマ オサム)
Text & Photograph: Miyama Osamu


【煙の匂い】
・ 料理の匂い?
 夜7時ごろビールを飲みながらネットで遊んでいたら、何やら焦げ臭い空気が漂ってきた。思い当たるのは隣人。隣の部屋の家族はテラスで料理をする。うちの半分くらいの広さで10人近く住んでいるからスペースの関係上、そうなるのだろう。魚の干物を焼く匂いが流れ込んできたりして迷惑なこともあるけど、まあギリギリ許容範囲内。その日も何か焼いてるのかなくらいにしか思っていなかった。しかし、どうも食べ物の匂いではない。

・ 焚き火の煙?
 匂いの正体で思い当たるのがもう一つある。うちのコンドミニアムの隣には空き地があって 2〜3世帯がそこで暮らしている。いわゆるスクワターだ。
 ここの空き地では月に一回あるかないか程度で焚き火をやる。漂ってくるのは、たいてい枯れ葉や木を焼いた匂いだ。これがプラスティックを焼いた匂いとかだと我慢できないけど、幼少の頃、自分ちの庭でよく焚き火をやったので懐かしい匂いだなあくらいにしか思わない。

【暑い】
 さほど気にせずに飲んでいると、外から若い子たちの嬌声が聞こえる。やっぱり焚き火でもして飲んで大騒ぎしてるのなあと思っていたら、嬌声が悲鳴と怒声に変わった。同じくらいのタイミングで暖かい空気が部屋にどよどよと入って来た。暑い。振り返ると窓に炎の赤い影がちらちらと映っている。


1階のテラスから撮影

【火事だ】
 テラスへ出た。炎がうちのコンドミニアムの4階の高さまで上がっている。近すぎる。コンドミニアム隣のバランガイとは高さ7〜8メートルのコンクリの壁で遮られているが、炎はそれよりもずっと高い。火事の現場に一番近いコンドミニアムの角部屋は、もうちょっとで巻き込まれるんじゃないかという勢いだ。
 なぜか携帯で写真を撮ってしまう。遊んでる場合じゃない。煙が部屋になだれ込まないよう全ての窓を閉めた。2階の部屋の窓を閉めようと階段を登る。なぜかそのまま窓の外へ出て屋根の上に。写真を撮影。遊んでいる場合ではない。換気扇を回そうと思ってキッチン方面に向かったらここで停電した。


うちの部屋の2階の窓から出て屋根の上から撮影。

【インターネットで遊ぶ】
 このあいだ買ったばかりの UPS がピーピー鳴いている。ほらね。停電でも大丈夫。インターネットもできちゃうもんね。今撮った写真をコンピュータへ落としてレビュー。横幅 640pxにして Facebookへ投稿。いかん。遊んでいてはいかん。このあたりで酒が抜けた。ちゃっちゃっとコンピュータの電源を落として安全確保。ちょっとだけ手が震えている。

【部屋の外では怒号が飛び交う】
 廊下の方はどうなってるかと玄関に向かう。人が走り回る音、メンテナンス・スタッフの怒鳴り声が遠目に聞こえる。外の様子を見ようとドアノブに手をかけようとした瞬間に ダダんっ ダっ ダンっ!! とものすごい勢いでノックされた。その後にドタドタと勢いよく走り抜ける足音。あわてて短めの鉄パイプを取ってきて左手で握りしめ、振りおろせる角度で背中に隠しながら少しだけドアを開けた。

 「大丈夫ですか?」とセキュリティー・ガードの子が顔を出した。「うん。大丈夫。」「誰かがノックしてもすぐ開けちゃダメですよ? 泥棒も来ますから。」「ありがとう。わかった。」。オメーのノックが一番ビビったよと心のなかで毒つき、鉄パイプをドアで見えないように隠しながら壁に立てかけた。廊下をチラッと見たら、バケツで水を運んだのか、床のあちこちに水溜りができている。暗がりに目を凝らすと停電で暇そうな子たちが携帯を片手に廊下でたむろしている。うちは大丈夫そうだ。


消防車、放水開始

【消防署の人と、その他大勢が来る】
 そうこうしていると顔にタオルを巻いた男たちが廊下に雪崩れ込んできた。強盗か。でもユニフォームを着ているので消防署の人だ。それに伴ってTシャツ、ビーサンのおっさんたちもぞろぞろ入ってくる。こっちの方はどうみても消防署の人に見えない。いっちゃ悪いが火事場泥棒のような風体だ。これは気をつけないと。見回りのふりをしてあっちこっちのドアをノック、耳を当てて中の様子をうかがったり、2〜3人組の若い女の子がしゃべっているところに鼻の下を伸ばしながら話しかけていたりする。消火活動はしていない。

【プロはすごい】
 しかしユニフォーム姿のプロは違った。ずかずか廊下を歩いてきたと思ったらまっさきに消火栓へ向かい、タオルをグルグル巻きにした手でハンマーを握り、消化ホースが格納されているガラスの扉を躊躇なく叩き割った。枠に残ったガラスも全部払い落とし、手慣れた感じでホースを引きずり出す。もう一人が現場に面したガラス窓を手際よく叩き割る。
 放水開始。この消火栓、今まで使ったのを見たこと無いけど、ほんとに水なんか出るの?と思っていたら、ものすごい勢いで放水。火元にドバドバ水がかかっている。これはちゃんと消火できそうだ。なにか手伝いたそうな顔をして水の入ったバケツを持っていた近所のパキスタン人の少年と一緒にその様子を眺めていた。

【鎮火】
 その後30分ほどで鎮火。ところどころに赤い炎がチラチラ見える程度になった。火事現場のバランガイのあっちこっちのトタン屋根に上がった消防員が念入りに、念入りに火を消している。出火してから2〜3時間程度で落ち着きを取り戻した。「全部終わりです。大丈夫ですか?」と消防員の人に話しかけられた。でかい。思わず見上げてしまった。「大丈夫です。ありがとうございました。これで何か食って今日は休んでください」と、ちょっとだけ包んで渡した。彼は敬礼して受け取った。すごく礼儀正しい。迷っていたのだけどあげてよかった。


コンドから出たら EDSA に消防車とマスコミと野次馬がいっぱい

【脱出】
 もう少し停電が続きそうだ。昼間っから歩き回っていたので汗をすごくかいていて、どうしてもシャワーを浴びたい。まだ少し冷たいビールを冷蔵庫から出して1リットル飲み終わる前に決断。SM健康サウナに行こう。ちゃっちゃっと着替えて外に出た。消防車が止まっている。現場をできるだけ見ないように通り過ぎ、タクシーを拾った。

【長いあとがき】
 SM健康サウナに着いて受付をしている途中に気分が変わってこの際、泊まっちゃおうかなと空き部屋があるか聞いてみた。シングルは空いてなくて、「なんとかデラックス(失念)」ならあるという。3900ペソくらいだったと思う(失念)。一晩眠りたいだけにしては大げさだなと思ってやめた。空き部屋の照会をしてもらっている間、受付の人に「火事で停電になっちゃって。。」みたいなことを話していたら、「あ、ニュースでやってたの見ました。大丈夫です。朝6時までならリラクゼーション・ルームで寝て頂いて結構です。」とすごく親切な助言をもらった。が、どうも彼女は、うちのコンドが丸焼けになって私が焼け出されたように勘違いしているふうだ。妙に丁寧。

 サウナから上がってリラクゼーション・ルームでビールを頼もうとしたら、先にした話がこのフロアにも回って来ていたようだ。 「大変だったでしょう。」 とか言われ、すごく丁寧に扱われた。どうも勘違いしている。「いやいや、火事になったのはうちじゃなくて。その隣の。。」「朝6時までここで寝てても大丈夫です。」。 オレ、なんかすごいかわいそうな人になってる。人の話を聞け。
 まあ、親切にしてくれているのに文句なんかない。結局、遅くまで飲んだけど、ものすごく疲れていたので熟睡できた。朝5時位に起きた。少々二日酔い気味だったけど、そこで朝食も食べた。二日酔いのくせにガっついたもんだから胃がひっくり返りそうになった。でも環境を変えたので気分はいい。火事で焼け出された人には申し訳ないが、たまにはこういうハプニングも悪くない。


一夜明けてコンドの4階から現場を撮影

----参考リンク----
1. MMDAのニュース。公式Facebook
2. 以前書いた近所の火事の記事



投稿者 MMG : 23:59 | - | |